●50代のおっさんが包丁を砥ぎながらガンビの皮を考える閑話。

おっさんが幼少の頃、ストーブと言えば薪ストーブであった。
風呂も薪と石炭で沸かす仕様で、小学校低学年くらいまで、家での
風呂炊きがおっさんの仕事であった。灯油ストーブが普及してからも、
風呂だけは何故か薪+石炭ストーブだったのだ。
そんな分けで火をおこすのは、おっさんにとって難しい事では無い。
薪の湿り具合や太さを見たら、火が起きるか、起きないか、着火前に
容易に想像がつく。
石炭を燃やす為には更に強い火力を要する。薪が湿っていたら石炭は
燃えない。少ない薪で石炭を燃やすにはある程度の経験がいる。
木材の発火点は約260°に対して、石炭は330°以上必要だ。
若干しけっている木材の場合、まず細い割りばし程度の束を多めに作る。
次に中くらいの細さの束を作る。その準備がないと、しけった薪で石炭
の発火点には至らない。
薪が無い場合は新聞紙で石炭に火を付ける。これが、なかなか難しい。
新聞紙をねじり、こより状にしたものを使うのだが、ぎゅぎゅうに
捩じれば良いという分けではない。適度に空気の層がないと駄目だ。
当時は簡単にやっていたが、おっさんでも今再現するのは難しいかも
しれない。新聞紙こよりの配置や石炭の配置も重要なのである。

新聞紙や薪の代わりになるものと言えばガンビの樹皮である。
白樺の樹皮の事で北海道では昔からガンビの皮と呼ばれ自然の着火剤
として使われていた。但しススが大量に出るので、煙突掃除の時期が
大変になるという欠点もある。こういった知識や技能が不要になった
現在ではあるが、白樺の木を見るたびに無くしたくないな~
と思うのである。
もし昔の人に現代のPCや電化製品を渡した所で、うまく扱えないと
思う。誰かが作ったプロトコルにうまく馴染めないからである。
しかし反対に現代の人に新聞紙を1枚渡し、石炭に火を付けろと言っても
うまく出来る人は少ないだろう。 自然のプロトコルに馴染んでいない為
である。どちらがより難解かという事であれば後者だと思う。
湿度や酸素濃度、薪の配置や太さ等、作業する上で選択するパラメーターが
多いのは間違いなくこちら側である。 石油ストーブに火を付ける事に比べ
労力が半端ない、バリバリのアナログに過ぎる着火方法であるが寒い時期に
なるといつも思い出すのは、熾きの火や匂い、湿らせた新聞紙にリンゴや
芋を包んでストーブに放り込み食べた味など無性に懐かしく思い出すのである。
岩魚岩男
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