●50代のおっさんが包丁を砥ぎながら日本刀や脱炭を考える閑話。

鋼は炭素があるから硬度を保っている。だがしかし、
炭素含有量が多いと金属は硬くなるとは言われているが
正確には”硬くなりやすい”だけで、炭素含有量=硬さ”
では無いと思う。炭素は金属を硬化させる為の材料ではある
が刃物の最終的硬度において焼き戻しの処理による影響が
支配的だと思う。また、硬度を低下させるもう一つの要因で
ある脱炭についても考察してみようと思う。 ちなみに、
砂鉄から玉鋼を生成する”たたら製鉄”というのを知っている
だろうか? 古来より日本刀に使用されてきた鋼を作る製鉄法
で土で作った高さ3mを超える炉で砂鉄と炭を投入し作られる。
この砂鉄を溶かす為には1400度近い温度を維持する必要が
あるのだが、純鉄に近い鉄は溶けきらづずにケラと呼ばれる
鉄塊として炉の底に溜まる。一方、不純物の多い鉄は溶けて
ノロというマグマの様に溶けた状態で炉外に排出される。
砂鉄自体の炭素含有量は0.5~1.0%と意外と低い。だが、
ケラとなった鋼の炭素含有量は1.5%に上昇しているのである。
鋼に含有している炭素はイメージ的に微小な炭が入っている様
に思われるかもしれないが、少し違う。炭素が鋼に溶け込む時は
ほとんどが炉内の一酸化炭素や二酸化炭素という形で溶け込むの
である。
なので炭素が鋼から抜ける現象も案外容易に起こる。
鍛冶屋さんが熱した鉄をトンテントンテン金槌で叩いている時
に鋼の表面から薄皮が剥がれていく様子を見た事があると思う。
金属は高温に晒されると、異常な勢いで酸化していく。
空気中の酸素と結合して被膜となり鋼の表面を覆うのである。
この時、同時に一酸化炭素や二酸化炭素と鋼表面の炭素が結合
して飛散していくのである。これが脱炭である。
焼き入れ時、酸化を伴う脱炭が起こりやすく鋼表面は
脱炭層という比較的柔らかい層が形成される。
実はこの現象、常温の環境でも起きる。錆びである。
錆びが発生している部分でも局所的脱炭は起こっている。
その為、刃物を高温環境に長時間晒す事や酸化させる事はは
極力控えた方が良いとおっさんは思う。
但し靱性を必要とする峰側に有るのは問題無いと思われる。
黒皮と言われる黒色の酸化被膜は錆び防止や靱性の確保という
意味ではプラスに働くと思う。
刃物の脱炭と言っても一概にネガティブなものとは言い切れない
ようはバランスだと思う。ナイフ鋼材の炭素含有率は1%前後が
多いが日本刀のような長物には多すぎる様に思う。
日本刀は折り返し鍛錬する事により余分な成分や炭素を脱炭させ
調節した結果0.6%程度に収まると聞いた事がある。
確かにナイフと違い長いが故、歪みの影響は無視できないのだと
思う。仮に、完成品である日本刀の炭素含有率が1%以上あった
場合、交番応力により簡単に折れそうな気がする。
戦国時代の刀にまつわる本を読んだ事があるが、先人の試行錯誤
には狂気とも思える研鑽が伺えるのだ。特に焼き入れや焼き戻し
の逸話は多い。この温度管理は秘伝中の秘伝で焼き入れする水の
温度を確かめようとした弟子の手を切り飛ばした話や、焼き入れ
の実験の為に生きている罪人の体に刺して焼き入れした話など
とても正気とは思えない話ばかりである。 まあ善悪は別として、
そこまで突き詰めて口伝により伝えられてきた技術の結晶が
日本刀なのだと思う。
岩魚岩男
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